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サンマさま

 8月もとうとう今日でおしまいです。

 去るものは追わず。

 となればもう秋を楽しむしか道はありません。芸術でも、読書でも、スポーツでもなく、私の場合はもちろん食欲の秋ということになります。

 

 去年はずいぶんとサンマが高かったのですが、今年は豊漁ということで、この時期にびっくりするくらいの安さです。

 旅の途中で、拒否権なしに我が家の食卓に上っていただいたサンマ。

 いや、サンマさま。

 ピカピカのそのお肌を無情にもジュージューと焼かせていただき、熱々でいただきました。大変美味しかったです。その貴重なエネルギーを頂戴したからには、ちゃんとしたものを描きます。

 食器を洗いながら、そう誓いました。

 

 しかし、そこで、私の中のサンマさまが問いました。

 ちゃんとしたものとはどういうものなのか?

 ちゃんとしたものを描くとは、どんな作品を描くことなのか?と。

 

 いやいや、サンマさま。どうかそこはお聞きになりませぬようお願いいたします。私自身、そのことに関しましては、未だ全く解らないのでございます。

 あなた様を存分に食しておきながら、大変申し訳ないのですが、しばしお時間をくださいますよう、どうか切にお願い申し上げます。