ハルゼミの大合唱が続いている。新緑とのコラボレーションが清々しい。つかの間の季節。目を閉じると今を忘れそうになる。
先日、暗闇の中、ゴーッという恐ろしい音で目が覚めた。
山鳴り?
カーテンを開けると、うっすら見える黒い木々がぐにゃぐにゃに揺れていた。
踊っている!
一瞬そう思い、次の瞬間、現実の恐怖に襲われた。
その日の風は、ここに引っ越してきて初めて味わう恐ろしい風だった。
私にとって、今も昔も、風は心地よさの象徴だ。
気持ちのよい風にあたっていると、自分もこのまま透明になりたいと思う。
目に見えない。形もない。色もない。
ただただ感じるだけの風に、でも、人は様々なことをふくませる。
なかなか機会に恵まれないが、数年に一度の割合で、信じられないくらい爽やかな風に出逢う時がある。
別名、幸せの風。
あの風につつまれると、本当に自分が溶けてしまいそうになる。
今年こそは、あの風に出逢いたい。
ハルゼミの声を聴きながら、祈るように思った。